ストーリーが超ジミースパイ小説で
テーマが超ジミー。
何かが起きたか、っていうと何も起きてない。
でもそれはつまり超ジミースパイの
目指すところなのかもしれない。

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地域密着型スパイ

スパイっていうとアレだ。
「今回の任務はニューヨーク」とか
テープから流れてくるイメージ。
当然再生後のテープは燃える。

主人公はニューヨークまで行く。
普段住んでいないところだから
旅行中の人って設定になる。
この場合ずっと任務中なのだから
ある意味ラクだ。

でも地域密着型はそうではない。
任務を果たす同じ土地で
プライベートもすごす。
これってかなりキツイよね。
公私の切り分けができない。
休日であっても気が休まらない。

鈴木と名乗って標的に接近して、
居酒屋でばったり会って
佐藤と呼ばれている、
なんてことになったら終わりだ。

その最たるものが結婚っぽい。
もし遠く離れた土地でしか
任務につかないのなら、
出張の多いビジネスマンでOK。
でも近所で偽装するなら
とんでもなく制約条件は多くなる。

こういうのって、
本物はどうしてるんだろうね。
たとえば東京で調査官をやるなら
隣県に住んだ方が良さそうだ。
ターゲットとの予期せぬ遭遇確率は
ぐっと減るだろう。

神戸はどうだか知らないが、
仙台とかだと大変そう。
地方都市はけっこう狭いので
思わぬところで会ってしまうかも。


何もないのが一番

大変だとは言っても、
無くてはならない職業だと思う。
調査官の苦労を察して
悪者は手加減してくれないし、
逆に痛いところをついてきそう。

食品を偽装する悪徳業者は絶えない。
怪しげな思想の集団も次々あらわれる。
外国だって
日本をそっとしておいてはくれない。
スパイ天国ってくらいだから、
むしろ大喜びで暴れる。

そんな大切な職業に陽の光を当てるには
日本が大変な目に会うしかなくね?

世の中にはいろいろな利害があって、
制限を嫌う人たちも多い。
実際に日本を害そうと思っている
とんでもない連中もいれば、
なんとなく気に入らないって人、
付き合いでしかたなく、など様々。

そのせめぎ合いが現状を作っている。
これを打破するためには
何か大きな事件が起こって、
あ、これはヤバい、と
みんなが気づかなければならない。

なんだけど、それはおそらく
超ジミーの目指すところではない。
超ジミーなんだから目立つのはNG。
大きな事件が起こるなどもってのほか。
当然のごとく未然に防ぐ。

自分たちの超ジミーさ加減に
首を傾げながら、
自分たちが超ジミーでいられるよう
四苦八苦する。
なんとも不思議な存在だ。

それってやっぱり平和ってことで、
良いことなんだと思う。
スパイが大活躍して
表舞台にまで噂がおよぶってのは
ヤバい世界なんじゃね?

事件が起こらないように目を光らせ、
今日も何も起こらなかったと
胸をなでおろす。
まさに縁の下の力持ち。

これってサラリーマンの生活みたいだ。
仕事がとどこおりなく進む状態、
何事もない平穏無事を願う。
超ジミーだけどそれでOK。

平和ボケなのも怖いけど
ガンガン戦争やるよりずっとマシ。
そんなことを考えました。

普通のスパイものにありがちな
派手さがいっさいない、
あんまり類を見ない面白小説ですよ。



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鳴かずのカッコウ
手嶋龍一
小学館
2021-02-25